ITエンジニアの離職率とは?離職を防止する方法を解説
ITエンジニアは「離職率が高い」といわれることが多いようですが、調査データを見てみると、他の産業と比べてIT業界全体の離職率が高いわけではありません。
では、なぜITエンジニアの離職率が高いといわれるのでしょうか?
そこで今回は、ITエンジニアの離職の実態について解説するとともに、離職へつながりやすい原因や、企業が行うべきITエンジニアの離職を防ぐための対策などについて紹介します。
INDEX
エンジニアの離職率はどのくらい?
厚生労働省の「令和3年雇用動向調査」によると、IT業界(情報通信業)の離職率は9.1%です。この数字は、産業区分の16業界中で3番目に低い結果でした。全業界の平均離職率が13.9%であることや、10%以下の業界は離職率が低いと見なされることから、IT業界の離職率はそれほど悪くないといえます。
ただし、離職率9.1%というのはIT業界全体の平均です。ITエンジニアなどのIT技術職だけでなく、営業職や事務職なども含まれた数字であること、企業ごとに離職率が異なることに注意しましょう。
なお、厚生労働省の2022年10月発表資料によれば、新卒就職者の新規就職3年以内の離職率は大学卒の場合で31.5%、高校卒の場合で35.9%と高い数字です。どのような分野であっても、新卒就職者は、中途入職者よりも離職しやすいといえるでしょう。
参考:
厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況(平成31年3月卒業者)を公表します」
エンジニアの離職につながるIT業界の特徴とは?
ITエンジニアの離職には、以下のようなIT業界の特徴が関係していると考えられます。
・労働時間が長いケースがあるため
・エンジニアの需要が高く、転職市場が活発なため
・評価基準が明確でないため
これらの特徴がどのようにエンジニアの離職に関連しているのか、それぞれ解説します。
労働時間が長いケースがあるため
IT業界は、残業や休日出勤が多い業界です。2017年に発表された厚生労働省の「IT業界の長時間労働対策について」では、IT業界は全産業平均よりも年間で、総実労働時間は約200時間長く、所定外労働時間は約70時間長いことが指摘されています。
長時間労働の背景には、顧客から継続して仕事を受注するために、タイトな納期や急な仕様変更などにも対応しなければならないという事情があります。また、近年のIT需要の急激な増加も、業務量の多さに拍車をかけていると考えられるでしょう。
エンジニアの需要が高く、転職市場が活発なため
IT業界は深刻なITエンジニア不足にあり、売り手市場です。そのため、同業他社への転職に対するハードルが低くなっています。
業種を問わず、優秀なITエンジニアを求める企業は数多くあるため、現在勤めている企業の待遇に不満があったり、別の企業から好待遇を提示されたりすると、スキルのあるITエンジニアは転職を検討する可能性が高いです。他社に待遇面などで負けてしまっている企業では、離職率が高くなってしまう傾向にあります。
評価基準が明確でないため
ITエンジニアは他の業種よりも評価基準を明確にしにくく、評価があいまいになりやすい傾向にあります。ITエンジニアの業務範囲は広く、必要となる技術も多いため、ITエンジニアが納得するような評価基準を設定しにくいのです。
評価基準が定まっておらず、正当な評価や報酬を受けられない場合、ITエンジニアが不満を抱いたり、モチベーションが下がったりする原因となり、離職につながりやすくなってしまいます。
エンジニアが離職しやすい職場とは?
ITエンジニアが離職しやすい職場には、例えば、以下のような特徴があります。
・ワークライフバランスを重視していない
・新入社員や中途採用社員へのフォローができていない
・社員同士のコミュニケーションが少ない
具体的にどのような職場なのか、確認していきましょう。
ワークライフバランスを重視していない
2019年、働き方改革関連法が順次施行されるなど、国を挙げてワークライフバランスを重視する取り組みが推進されています。
株式会社ライボの「2023年 ワークライフ実態調査」によると、ワークライフバランスの理想は「プライベートを重視」と回答した人が38.7%、「どちらかといえばプライベートを重視」という回答が33.5%で、あわせて72.2%の人が「プライベート重視派」でした。
出典:Job総研による『2023年 ワークライフ実態調査』を実施 理想はプライベート重視7割 実際は仕事に偏りギャップ顕著|ライボのプレスリリース
この調査結果からも分かるように、働き手の中でワークライフバランスへの意識が浸透していて、プライベートと仕事のバランスが悪い職場は、離職する原因の1つとなり得ます。
特にITエンジニアは、タイトな納期やトラブルの発生、クライアントからの急な仕様変更などが原因で、想定外の残業や休日出勤が発生し、長時間労働になりやすい職種です。長時間労働が常態化すると、プライベート重視派にとっては魅力のない職場環境となるでしょう。
新入社員や中途採用社員へのフォローができていない
慣れない環境で働く新入社員や中途採用社員へのフォローができていない職場も、ITエンジニアが離職しやすくなります。
新入社員や中途採用のITエンジニアにとって、仕事に慣れないうちは、上司や先輩社員などに確認をしながらでなければ仕事を進められません。社内独自のルールや業務の全体像などは、教わらなければ分からないためです。
上司や先輩、同僚を頼れない雰囲気や環境であれば、仕事を円滑に進められずにミスも起きてしまいやすくなります。仕事をうまく進められずミスが重なれば、自信を喪失し、転職を考えるITエンジニアが増えてしまうでしょう。
社員同士のコミュニケーションが少ない
社員同士のコミュニケーションが少ないと、仕事内容の認識にズレが生じたり、連携がうまくとれずに取引先の信用を失う事態を引き起こしたりします。
また、良好な人間関係が構築できずに人間関係の悩みを抱え、仕事へのモチベーションが下がりやすくなります。意見交換が少なくなるため、新しいアイデアも生まれにくくなり、ノウハウの蓄積・共有も難しくなるでしょう。
このように、ディスコミュニケーション(コミュニケーションが機能していない状態)の環境では、円滑な仕事ができなくなります。ストレスを抱えるITエンジニアが増え、離職の原因となります。
エンジニアの離職率を低下させるための対策法
ITエンジニアの離職率を低下させるためには、以下のような対策法が有効です。
・ミスマッチ採用を防ぐ
・新入社員や中途採用の社員が働きやすい環境にする
・社員の評価・昇給制度を整える
・定期的なヒアリングで社員の不安や不満を把握する
・社員同士のコミュニケーションを活発にする
それぞれについて詳しく解説します。
ミスマッチ採用を防ぐ
ITエンジニアの離職を防ぐには、採用時点で企業側とITエンジニア側の認識を擦り合わせ、採用のミスマッチを防ぐことが大切です。そのためには、企業側は求める人材像(スキルレベル、年齢、キャリアプランなど)を明確にしておく必要があります。
また、面接の際には、ITエンジニアが使用できるプログラミング言語、得意分野、専門分野などのスキルや経験、どのようなキャリアプランを思い描いているのかなどをヒアリングします。求める人材像とヒアリング内容を照らし合わせ、自社とITエンジニアとの相性を見極めるのがポイントです。
ITエンジニア自身が自社との相性を見極められるよう、自社の特徴や求める人材像をホームページや募集要項でしっかり説明しておくと、さらにミスマッチ採用を防げます。
新入社員や中途採用の社員が働きやすい環境にする
新卒社員の就職後3年以内の離職率は高い傾向があります。したがって、環境に慣れていない新卒や中途で入社したITエンジニアが働きやすい環境を整えることが大切です。
新入社員研修の実施だけでなく、メンター制(先輩社員が後輩社員をサポートする体制)、ITエンジニアが専門的なスキルを身につけられるようなスキルアップ制度を整備するのもよいでしょう。
また、コミュニケーションがとりやすい環境づくりも重要です。新卒や中途で入社したITエンジニアが企業になじめるよう、メンター以外に、上司や採用担当者による定期的なフォローアップ面談を実施するのも効果的です。
社員の評価・昇給制度を整える
評価基準があいまいなことが原因で、ITエンジニアが「成果に対して正当な評価を受けていない」と不満を感じれば、離職へつながる可能性が高くなります。そのため、社員の評価制度や昇給制度に明確な評価基準を設け、客観的で公平性のあるものにすることが大切です。
年齢や勤続年数にかかわらず、能力に見合った正当な評価がなされれば、ITエンジニアの企業への信頼感や仕事へのモチベーションも上がるでしょう。また、「客観的で公平性のある評価が行われている」と分かれば、評価内容への納得感が増し、不満も出にくくなります。
定期的なヒアリングで社員の不安や不満を把握する
定期的に面談を実施する機会を設ければ、ITエンジニアの悩みや不安、不満を知ることができ、その原因を解消しやすくなります。ITエンジニアが離職を決意するほど悩みが肥大化する前に、ヒアリングから原因を特定し、早めに解消または改善するのが大切です。
定期的なヒアリングで話を聴くこと自体が、ITエンジニアに、企業や上司に対する安心感・信頼感を与え、離職率の低下につながります。
社員同士のコミュニケーションを活発にする
職場のコミュニケーションを活性化することは、離職率を下げる対策として代表的なものです。具体的な施策には以下のようなものがあります。
・社内イベントや交流会の実施(ランチタイム会や飲み会)
・社内ブログ・社内SNS・社内表彰制度の導入
・社内報の発行
・メンター制度
・1on1ミーティング など
企業の課題や社員のニーズに合わせた施策を取り入れることで、社員同士の交流が深まります。
ただし、コミュニケーション施策への参加を強要するのは逆効果です。あくまでも業務を円滑に進めたり、定着率を向上させたりするのが目的であり、「参加させること」が目的になっては本末転倒です。社員のニーズを把握し、ストレスのない施策を行うのがポイントです。
エンジニアの離職率を下げるためのツールを導入しよう
IT業界の離職率は全業界と比較して低水準です。しかし、ITエンジニアは、どの業種でも需要が高いため流動性が高く、離職しやすい職種です。そのため、企業とITエンジニアの相性や職場環境が悪ければ、ITエンジニアは離職してしまいかねません。
ITエンジニアの離職を防ぐには、ミスマッチ採用を防ぐのをはじめ、客観的で公平性のある評価制度の整備、職場のコミュニケーション活性化なども考える必要があります。業界の特性上、長時間労働による社員の心身の不調を早期に発見することも必要でしょう。
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