SESは海外にもある?なぜ海外では少ないのか解説
SES(System Engineering Service)とは、IT業界で使用されている業務委託契約の1種です。システムの開発や保守、運用時などに必要となるエンジニアの技術力を、クライアント企業に提供する契約です。
実は、海外ではSES契約はほとんど見かけません。正確にいうと、過去には似た形態の契約はありましたが現在はほぼなくなりました。
今回はSESが海外で少ない理由について解説するとともに、日本のIT企業が海外で市場プレゼンスを向上する方法、また各エンジニアが自分の価値を可視化して海外でも活躍する方法についてもあわせて解説します。
INDEX
SESは海外では少ない
日本のIT業界では見かけることの多いSESですが、アメリカを含む海外ではSESは数が少ない傾向にあります。というのも、海外においてシステムは自社開発が主流となっており、外部のエンジニアに仕事を依頼することがほとんどありません。
大企業であるGAFA(Google・Apple・Facebook・Amazon)も、ほとんどのシステムを自社で開発しています。
SESが海外で少ない理由
SESが海外で少ない理由には下記のようなことが挙げられます。
・1990年代に再委託業種が消滅したため
・日本よりも正規雇用の障壁が低いため
・海外は自社開発が主流であるため
・プログラマーの直接雇用が多いため
それぞれの理由について説明します。
1990年代に再委託業種が消滅したため
アメリカで再委託がなくなった背景には、1990年代にインドを中心としたオフショア開発が積極的になったことが挙げられます。再委託とは、委託されていた業務の一部またはすべての業務を第三者にさらに委託する契約です。
オフショア開発へとシフトする中で、さらに大きな契機となったのは2000年問題でした。当時システム内の年度表記は下2桁で処理されていることが多く、2000年に対応できなかったため、多くのアメリカ企業が対応に迫られました。この対応策として、インド企業に依頼をするようになったのです。
結果として、アメリカにあるSES企業のような委託業務を行う会社は、ほぼなくなることになりました。
日本よりも正規雇用の障壁が低いため
SESが廃れた背景として、日本とアメリカでは雇用に関する障壁が異なる点も挙げられるでしょう。
日本では、解雇に関する法律が定められており、いつでも自由に解雇できるというわけではありません。一方、アメリカでは「自由意思にもとづく雇用」と呼ばれる雇用形態が一般的となっており、雇用した社員を日本よりも比較的容易に解雇が可能です。
そのため、アメリカでは必要な人材を気軽に雇用し、また解雇も容易なため、SESのようなシステムを利用する必要性が低くなったのです。
海外は自社開発が主流であるため
アメリカなどの海外では、スピーディな開発を行うために自社開発が主流となっている点も、SESが少ない理由のひとつです。
日本の企業では、まず仕様書を作成するために、1、2か月ほど時間をかけることもありますが、アメリカではスピードを重視するため、2~3ページだけの簡単な仕様書でプロジェクトが開始することも珍しくありません。
仮に仕様書の内容で対応できない部分があったとしても、自社開発であるため、コミュニケーションをとりながらその都度柔軟な対応が可能です。SESなどの外注をはさむと、このようなスピード感のある開発が自社開発よりも難しくなるため、自社開発以外が好まれない傾向にあります。
プログラマーの直接雇用が多いため
海外では優秀なプログラマーを直接雇用する文化が根付いている点も、SESがあまり導入されない理由のひとつでしょう。
海外、とくにアメリカの企業はプログラマーの需要が高く、他の企業に確保されないように積極的に直接雇用する傾向にあります。そのため、SES企業や派遣企業に人材が流れにくく、委託や請負業務の運営が難しいです。
これから日本のIT業界が市場価値を高めるには
SESという契約形態がない海外市場も含めて、日本のIT企業が今後市場価値を高めるには、下記のようなことを意識する必要があります。
・開発、改善のスピードを上げる
・システムの保守性・拡張性を高くする
ここでは、企業目線で日本のIT業界が市場価値を高めるための具体的な方法を解説します。
開発、改善のスピードを上げる
海外の開発スピードに追いつくために、開発チームが継続して保守・管理を行い、スピード感あるシステム運用が求められるでしょう。
現在の日本のビジネスシーンでは、開発期間が長期化する原因のひとつである、上流から下流に流れるウォーターフォール的な開発プロセスが減りつつありますが、いまだに主流です。そのため、アジャイル開発が主流の海外と比較すると、開発スピードが遅くなりやすいです。
アジャイル開発は、事前の設計部分を最小限にして重要なポイントの開発を優先するため、開発完了までの期間を短くできます。また、リリース後も継続して、開発、改善を行うため、アップデートの速度も上げやすいです。
システムの保守性・拡張性を高くする
近年、SaaSなどのクラウド型のサービスが主流となっていることも考慮すると、今後は、ユーザーのニーズに対応できる保守性・拡張性が高いシステムを構築することが、市場価値を高めていくために重要です。
クラウド型のサービスやシステムはサービス展開してからが本番で、継続して保守やサービスの拡張を行う必要があります。もしも、保守の対応速度が遅かったり、アップデートの頻度が少なかったりすると、ユーザーは競合企業のサービスに乗り換えてしまうかもしれません。
そのため、設計段階から保守性・拡張性が高いシステムを構築することにより、ユーザー離れを回避しやすくなります。
海外でも通用するエンジニアになるために必要なこととは?
日本で活躍するエンジニアのなかには、自分のスキルを海外でも試したいと考えている方もいるかと思います。
ここでは、エンジニア目線で海外のエンジニアに負けないために必要な2つのポイントを紹介します。
エンジニアが自分のスキルを可視化する
エンジニアは学歴や職歴ではなく、技術力やこれまでの開発実績で評価されます。そのため、自身のスキルを言葉や形で紹介できるように可視化しておくことは大切です。
とくに、オリジナリティのある開発実績は、他のエンジニアとの差別化につながるため、積極的にアピールできるように準備しておきましょう。逆に、要件定義に書かれている内容をそのままコードに落とし込むだけのような内容は、差別化にはつながりにくいです。
もしもアピールできるスキルや実績がない場合は、今後作成を依頼されたものを指示通りこなすのではなく、自分なりの考えを持って、効率よくコードを書けるよう工夫するのがポイントです。そして、その工夫をアピールポイントとして伝えるようにできると良いでしょう。
複数領域に精通したエンジニアになる
エンジニアとして、コードを書けることや技術の理解は基本的な必須スキルです。そのため、他のエンジニアとの差別化を図るためには、コーディング以上のさまざまな知識への精通が求められます。
活躍しているエンジニアの多くは、フロントエンドやインフラといった、さまざまな分野のIT知識に精通しています。また、エンジニアとしての知識だけではなく、よりよいシステムを構築するためにビジネスの理解なども求められます。
たとえば、技術を理解したうえで、ビジネスサイドに寄ったポジションで活躍できるエンジニアは高く評価されるでしょう。マネージメント層のニーズを十分に理解し、それに対応したシステムを構築できることは、一般的なエンジニアと差別化が図れているといえます。
日本特有のSESで成功するにはスキルの可視化が大切|その理由とは
エンジニアはこれまで何をやってきたのか、自分には何ができるのかといった、スキルの可視化が重要です。スキルを可視化すべき理由には主に以下があります。
・案件にマッチしたエンジニアか見極められる
・スキル向上につながり、企業側にとっては人材育成になる
・モチベーションを向上させられる
それぞれの理由について説明します。
案件にマッチしたエンジニアか見極められる
エンジニアは自分のスキル・知識を可視化することで、自身に合った案件に参画したり、キャリアプランを考えたりしやすくなります。SESで成功するためには、自分にあったプロジェクトに参画することが重要です。
企業側にとっては、エンジニアのスキルが可視化されることで、プロジェクトにアサインすべきかを判断しやすくなります。想定していなかったタスクや仕様変更に対しても、エンジニアのスキルを把握していれば、柔軟にプロジェクトメンバーの更新が行いやすいです。
スキル向上につながり、企業側にとっては人材育成になる
スキルの可視化ができていれば長所や短所が明確になるため、エンジニア自身のスキル向上につながる可能性もあります。保有しているスキルを企業や担当者に伝えることができれば、自分に不足しているスキルを身につけられる案件にアサインしてもらえる可能性があるのです。
プロジェクトマネージャーや上司が能力を把握しやすいように、自身の持っているスキルだけではなく、不足しているものまで伝えておきましょう。
また、幅広いスキルを持つことで、携われるプロジェクトが増え、SES企業にも貢献できます。企業にもメリットが多いため、自身の足りていないスキルもしっかり伝えましょう。
モチベーションを向上させられる
自分のスキルを可視化することによって、他のSESエンジニアとの比較ができるようになり、成長へのモチベーションにつながるでしょう。また、どの分野に自分は長けているのか、どの分野が苦手なのかを知ることは、今後の改善にもつながります。
たとえば、大規模システムを構築するのが得意なエンジニアや、顧客のビジネスを十分に理解しているエンジニアは、それぞれ長所を持っているといえるでしょう。一方、特定の言語でのコーディングが苦手だったり、コミュニケーションが苦手だったりするエンジニアは改善の余地があります。
海外を参考にし、SESエンジニアはスキルを可視化しよう
今回は、SES企業が海外では少ない理由について説明しました。海外でSESが少ない理由は、日本とは違いシステム開発を自社で行っている企業が多いことが挙げられます。
また、海外では雇用と解雇が日本よりも容易に行えることから、このような文化が根付いたといえるでしょう。文化が違うためすべてを真似することは難しいですが、海外に後れをとらないためにも積極的に参考にできる部分は取り入れることが大切です。
とくに優秀なエンジニアになるためには、自身のスキルを可視化し、SES企業に伝えておきましょう。
参考:海外のITエンジニアの年収(給料)は高い?アメリカなどの国際比較や日本との違いも解説 | 海外留学エージェントのキャリアワールド
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